耳ツボと耳鍼

2022.07.18

注目される耳鍼

耳鍼と聞くとどんなものをイメージするでしょうか。

「耳ツボダイエット」という言葉が広まっているように、痩身や美容の分野において、耳に刺激するといったイメージをされる方が多いと思います。キラキラした耳に貼るシールもあり、ファッションの一部として美容関係でも広まっています。耳鍼に使用する耳ツボは歴史が古く、様々な治療点として出発しています。紀元前にはすでに、耳を刺激して痛みを取り除く行為があったと記載されています。それが歴史の中で日本は、ダイエットという偏ったイメージが付いてきてしまいました。

耳鍼の歴史

人体の経穴(ツボ)は2000年以上の歴史がありますが、耳鍼も昔から存在していました。それから長い年月がたち、耳鍼の名前を有名にしたのが、ドイツの整形外科医であるノジェさんです。ノジェは、耳に火傷痕がある自身の患者さんをきっかけにして耳鍼について独自に研究を始めました。民間療法で耳にお灸をしていて、体の痛みをとっていたようです。そして、1956年に耳介反応点としてノジェ理論を発表しました。学校の授業ではノジェ=耳鍼と方程式のように習いました。その後、鍼誕生の地としてメンツを保ちたい中国は、自国民を対象とした大掛かりな耳鍼についての追試を行い、耳鍼(耳ツボマップ)を完成させました。これが1970年代になります。

こうして、ノジェが作成したノジェ理論の耳鍼と、中国式の耳鍼の2つが主流となっていきました。この2つは、ツボの場所が同じものもあれば、まったく異なるところもあります。ノジェは伝統的な耳鍼を参考としていますが、神経反射を介した反応点(西洋医学)をベースとした、「耳介反応点」という理論であり、中国式は弁証論治(東洋医学)をベースとしているので、根本的なところが違うからです。

耳鍼といえばノジェと答えますが、一般教科書やメディアにでるよく目にする耳ツボの図は中国式なことがほとんどです。

冒頭で述べた、なぜ日本ではダイエット=耳鍼というイメージが付いたかと言えば、1972年にニクソン大統領が中国を訪問した際に、鍼麻酔の現場を目撃し世界的に鍼ブームが起きました。その際に、耳鍼は依存症やダイエットにも効果がありそうだということになり、それを大々的に日本で宣伝しました。これにメディアがのっかってきたわけです。鍼は鍼灸師しかすることができませんが、耳への粒刺激や電気刺激、健康食品などは免許なしでもできるので、もっと大きな市場である健康美容産業で発展していく経緯となります。

耳鍼は効くのか?

鍼灸師になって、家族や友達、はたまた社交場での会話の中で一番多い質問は「痩せるツボ教えて」だと思います。※うなずいている鍼灸師さん多いと思います(笑)。

私も学生時代に、鍼灸担当の先生に「耳ツボは痩せるんですか?」と聞いたことがあります。おそらくその先生は保守派の方で、耳ツボに対して良いイメージを持っていないようでした。その答えは、

「耳ツボはよくわからないが、食事をする際に、両耳のツボを刺激すると気持ち悪くなってご飯を食べられなくなるから、ダイエットにはいいんじゃないか」でした。

当時は、そういう考えもあるのかしか思いませんでしたが、どちらかと言えば否定的な意見でした。

しかし、この先生の言葉の中で重要なワードは気持ち悪くなるという事実です。なぜ気持ち悪くなるのでしょうか?それが今回のテーマ耳鍼は効くのか?になります。

迷走神経

耳介(耳)刺激において、特に耳甲介腔は迷走神経支配(副交感神経)となっています。迷走神経は第10番目の脳神経で、副交感神経支配で心臓や胃、腸といった内臓器官に影響を与えています。現に耳甲介腔には食欲を抑えるツボが集中しており、満腹中枢や摂食中枢を介して、自律神経バランスを調整して肥満を改善する可能性があります。

耳鍼はサイエンスと言われているように、発生学的にみても興味深いところになります。私も、耳刺激を行いながら肩の可動域訓練を行ったらROMの改善がみられたことがあります。私の考えとしては、耳鍼は反射反応刺激なので根本的な改善には至りませんが、対症療法として症状緩和には効果があると考えています。鍼灸師はツボのプロとして、耳ツボをダイエットだけととらえず、痛み緩和の武器としても使用できるように、啓蒙していきたいですね。

耳ツボの紹介

①ダイエット

ダイエットには、飢餓点というポピュラーなツボがあります。そこに、迷走神経分布が多い耳甲介腔のツボを使用し、周りのツボで全体を調節します。※効果を保証するものではありません。耳ツボだけを行いその他を顧みない方は必ず失敗します。

②薬物依存、アルコール依存、禁煙

NADA(national acupuncture detoxification association)プロトコルは、薬物依存症や心的外傷後ストレス障害などの疾患に開発された耳鍼です。WHOの声明においても薬物依存症に効果的であると認められています。

③PTSD(心的外傷後ストレス障害)、 痛み

アメリカでは戦場鍼灸という分野があり、アメリカ軍は兵士に対して多くの耳鍼を行ってきました。 BFAポイント(耳の5点)に鍼を行うことで、兵士の様々な苦痛や痛みを和らげてきた経緯があります。医師を必要とせず、安価である耳鍼は、災害時など緊急時の疼痛緩和、心的ケアに役立つと注目されています。