脳出血を発症し、病院での回復期リハビリを終えて退院された方、あるいは現在のリハビリ環境に物足りなさを感じている方の中には、「もっと動くようになりたい」「シビレや感覚を良くしたい」と願っている方も多いでしょう。
私は20年間、鍼灸師として多くの脳血管疾患後遺症と向き合ってきました。西洋医学的な視点と東洋医学の経験を統合すれば、リハビリテーションの可能性はさらに広がると考えています。その中で、脳出血における鍼治療の貢献度を追求し続けています。自身の臨床から経験していることは、鍼治療は脳出血リハビリの効果を上げる相乗効果がある事、様々な症状を軽減させる可能性がある事です。この脳の再学習を手助けする鍼治療を、自身の体験をもとにお伝えしていきます。
1. なぜ脳出血後遺症に鍼が効くのか?(医科学的メカニズム)
鍼治療が脳卒中の後遺症に対してなぜ有効なのか。現在分かっていることに関して解説します。

①脳の可塑性を即す鍼刺激
脳出血によってダメージを受けた中枢神経細胞の周囲には、機能が一時的に低下しているものの、まだ生きている細胞が存在します。鍼刺激は、皮膚や筋肉にある受容器を介して、電気信号として中枢神経に届けられます。この求心性入力が脳を刺激し、低下している神経回路のスイッチを入れ、新しいネットワークの構築を促します。これが「脳の再学習(可塑性)」の土体となります。動物実験レベルのエビデンスに留まっていますが、鍼で動きだしたという経験がある方は、こういった考えが説明できます。
②神経栄養因子の分泌と血管新生がリハビリを促進
鍼刺激が、脳内においてBDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌を促進することが示唆されています。このたんぱく質は、神経細胞の維持や、シナプスの形成を促す「脳の栄養剤」のような役割を果たします。また、鍼刺激には血流調節や微小循環への影響も示唆されており、生き残った神経回路が働きやすい環境づくりに寄与する可能性があります。これらの作用が、リハビリによる機能回復の手助けとなることが期待されています。
③筋緊張の緩和:脊髄反射へ介入
多くの患者さんを悩ませる「痙縮」に対し、鍼は筋肉に直接的なアプローチを行っていきます。特に電気を用いて鍼通電させることで、脊髄反射や相反抑制などの神経生理学的機序に作用し、異常な筋緊張の緩和を行います。このようにして、身体を動かしやすい状態に整えた上でリハビリを行うことが、運動学習や機能回復の効果を高める可能性があります。
2. WHOも認める鍼灸の有効性と後遺症に特化した特殊技法
世界保健機関(WHO)は、鍼灸療法の適応疾患の一つとして「脳卒中後遺症」を明記していたこともあり、現在も研究対象として扱われています。一方で、脳卒中後遺症のリハビリとして鍼を積極的に取り入れている医療機関は限られています。
脳出血に対する鍼療法は沢山ありますが、その一つに「醒脳開竅法(せいのうかいきょうほう)」という鍼技法があります。中国で確立されたこの技法は、多数の臨床経験や研究報告をもとにしています。現在でも急性期から慢性期まで、幅広いフェーズの脳出血患者を対象に、臨床応用が行われています。残念ながら日本で行っている病院はございません。当法人代表の竹田は、醒脳開竅法の創始者「石学敏教授」に師事しており、中国で現場経験しています。その手技は、ラボのはり治療にも継承されています。

3. リハビリの可能性を広げる「時期」とアプローチ
- 回復期: 脳が最も回復しやすい時期です。発症から6か月がリハビリのゴールデンタイムといわれています。この時期は積極的にリハビリに参加し、麻痺の改善を狙います。鍼治療を取り入れている医療機関には限りがありますので、受けたい方は退院後が現実的です。
- 維持期: 発症から6か月が経過しても「これ以上は変わらない」という限界を決めつける必要はありません。継続的なリハビリは、必ず回復に向かわせてくれます。また、まだ行ってきていない方法や、リハビリのやり残しはあります。新しい刺激は、身体にとって新鮮です。その一つの手段として、鍼治療も検討ください。
4. 【症例紹介】70代女性・脳出血左半身麻痺。少しずつ感覚が戻ってきた
退院後、鍼を受けてみたいと、当施設を受診された方の例を紹介します。
疾病名:左脳出血 発症1年
症状 :右片麻痺、感覚障害
来院時の状態:右下肢は痙縮が強く、クローヌスも出現してしまうので、うまく歩行ができません。右上肢は、手の握り込みが強く、自分の意思では指一本動かせない状態でした。感覚の低下もみられ、特に下肢の触圧覚はほとんどわからない状態でした。
介入内容:鍼施術によって血行促進、筋緊張緩和を狙う。また、末梢神経を直接刺激する、醒脳開竅法を実施し麻痺と感覚の回復を促す。体を動かしやすい状態を作った後、手足を動かすリハビリを実施する。
経過:3ヶ月経過し、下肢の感覚が少しずつ戻ってきました。歩行時に足に体重がのっているのが分かるようになり、歩行練習もスムーズになりました。指も親指を自分の意思で動かせるようになってきました。


5. 鍼とリハビリを同時に提供する利点
当施設が重視しているのは、「鍼治療」と「リハビリテーション」を同時に行うことです。これは病院や一般的な鍼灸院では提供できない、自費リハビリ施設ならではの大きな利点です。
緩めてから動かす
鍼によって筋肉の緊張(痙縮)を緩和し、神経の伝達をスムーズにします。動きやすい状態を作った直後にリハビリを開始することで、脳は「正しい動き」を効率よく学習します。脳の可塑性の促進を狙っています。
従来の枠組みにとらわれない連携

鍼灸師と理学療法士が同じ現場で患者様の状態を共有し、リアルタイムでアプローチを調整します。「今はここが痛いから重点的に行っている」「この動きを引き出すために、こういった介入をしている」といった、情報交換をしています。そのために、朝のカンファレンスに多くの時間を割き、情報共有は入念に行っています。
鍼とリハビリは、互いに高め合う「相乗関係」です。この同時介入こそが、後遺症克服に向けての良い方法と考えています。
6. 最後に
脳卒中は、ある日突然人生を大きく変えます。かつての日常へ戻りたいという想いは、発症された方皆さんが抱く共通した願いです。鍼治療とリハビリテーションを融合させたアプローチは、万能ではありません。しかし、私の20年の臨床経験と医科学的な背景から言える事は、両者を同時に行うことは、脳卒中後遺症の回復へ希望のある選択であるということです。
「もっと良くなりたい」というお気持ちを、私たちが全力でサポートします。ぜひ一度、その融合の効果を体感してみてください。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
ご予約はお早めに!
この記事を書いた人

矢澤 大輔 鍼灸師
修士号(医科学)取得
臨床歴20年。入社以来、主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設から鍼施術を担当しています。東洋医学的な考えと西洋医学的なアプローチを合わせて施術を行います。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。