退院後、ご自宅での生活が始まると「もう二度と倒れたくないけれど、具体的に何を食べればいいのか分からない」「毎日一生懸命リハビリをしているのに、手足の動きや体力が思うように戻らない」と不安を抱えていませんか。
40代〜60代は仕事や家事など本来の役割が多く、現場復帰や自立した生活に向けて焦りを感じやすい年代です。ご本人だけでなく、日々の食事を準備するご家族にとっても「栄養管理」は大きなプレッシャーになっているのではないでしょうか。
脳卒中専門の自費リハビリ施設で多くの方を見てきて強く実感するのは、「食事はリハビリの土台そのものである」ということです。

食事には大きく分けて2つの役割があります。
- 血管を守り、再発を防ぐ「守りの食事」
- 筋肉や神経の回復を促し、リハビリの成果を引き出す「攻めの食事」
この2つを意識することで、日々のリハビリの成果をより高めてくれます。今回は、今日からご家庭で無理なく実践できる具体的な食事と栄養のポイントを分かりやすく解説します。
1. まずは土台づくり!血管を守り再発を防ぐ「守りの栄養学」
リハビリにどれほど励んでいても、再び血管にトラブルが起きてしまっては元も子もありません。脳卒中(脳梗塞や脳出血)の主な原因は、血管に強い圧力がかかり続ける「高血圧」と、血管が硬く狭くなる「動脈硬化」です。まずは血管をいたわる基本的な食事の仕組みを押さえましょう。
なぜ減塩が最重要なのか?(血管にかかる水圧の仕組み)
塩分(ナトリウム)を多く摂ると、体は塩分濃度を一定に保つために、水分を保持しようとします。その結果、体内の水分量や血液量が増え、血圧が上がりやすくなります。ホースに大量の水を流すと内側の圧力が強くなるのと同じで、血管内の血液量が増えて「高血圧」を引き起こします。高い圧力がかかり続けた血管は傷つき、破れやすくなったり(脳出血)、傷口に血栓が詰まりやすくなったり(脳梗塞)します。

- 実践の目安: 1日の塩分摂取量は6g未満が推奨されています。#1
たとえば、みそ汁一杯1~1.5g 梅干し一粒1~2g 醤油大さじ1杯2.2g カップラーメン4~6gです。 - 具体策: 麺類のスープをすべて残すだけで約2〜3g、しょうゆを「かける」のではなく小皿に取って「つける」だけで約0.5gの減塩につながります。
♯1日本高血圧学会HP参照
余分な塩分を押し出す「カリウム」の力
減塩とセットで意識したいのが「カリウム」です。カリウムには、腎臓でナトリウムが再吸収されるのを抑え、尿と一緒に体の外へ排出する働きがあります。野菜や果物などからカリウムを十分に摂取することは、血圧を適切に保つうえで役立ちます。
- おすすめ食材: ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、アボカド、バナナ、海藻類。
- 具体策: 野菜にはカリウムを多く含む食べ物が沢山あります。季節の野菜を食事に取り入れれば、手軽に摂取する事ができます。
※腎臓の持病がある方はカリウムの摂取制限が必要な場合がありますので、必ず主治医にご確認ください。
血管をサラサラに保つ油と「脱水」対策
動脈硬化を防ぐには、油の質を選ぶことが大切です。肉の脂身や加工肉に多い飽和脂肪酸は悪玉コレステロールを増やしやすい一方、青魚に含まれるDHA・EPA(オメガ3脂肪酸)は血液をサラサラにし、血管の炎症を抑える働きがあります。
また、意外に見落とされがちなのが水分補給です。体内の水分が不足すると血液の粘り気が増して流れが滞りやすくなり、血管が詰まるリスクを高めてしまいます。
- 具体策: 週に2〜3回はサバやイワシなどの魚料理を取り入れる(手軽なサバ水煮缶もおすすめ)。水分は「喉が渇く前」に、特に血栓ができやすい起床直後と入浴の前後、就寝前にコップ1杯の常温水やお茶を飲む習慣をつけましょう。

2. 成果を身体に定着させる!リハビリ効果を高める「攻めの栄養戦略」
「再発が怖いから」と過度な粗食や野菜ばかりの食事に偏っていませんか?実はこれが、リハビリが進まない大きな落とし穴です。
筋肉と神経の材料「タンパク質」が足りていない?
手足を動かすリハビリを行うと、筋肉や神経の線維は一時的に微細なダメージを受け、それを修復することで以前より強い動きを獲得していきます。この修復の材料となるのが「タンパク質」です。
脳卒中後は活動量が減ることに加え、麻痺側の筋肉を使わないことで「サルコペニア(筋肉減少症)」に陥りやすくなります。材料であるタンパク質が不足した状態でリハビリを続けても、身体は自分の筋肉を分解してエネルギーに変えてしまうため、かえって筋力が落ちてしまいます。
- 必要量: 毎食、片手の手のひら1枚分(厚みも含む)のタンパク質が目安です。
- 具体例:こまめに肉や魚を摂取出来ない方は、料理に賢くちょい足しすることで、たんぱく質の底上げができます。例)粉チーズやしらす、ゴマやきな粉をかける。卵やベビーチーズ、ちくわなどを足す。牛乳や豆乳を飲む。
動物性(肉・魚・卵)と植物性(大豆製品)をバランスよく組み合わせるのが理想です。
極端な糖質抜きはNG!エネルギー不足を防ぐ「適正糖質」
体重を落とそうとしてご飯やパンを極端に抜くと、脳や筋肉を動かすためのエネルギーが不足し、リハビリ中に力が入らなくなったり、集中力が低下して転倒のリスクが高まったりします。また、糖質から十分なエネルギーを得られないと、体はエネルギーを補うためにタンパク質を利用し、筋肉の維持や修復に必要なタンパク質が不足するおそれがあります。
主食(ご飯なら毎食お茶碗に軽く1杯程度)を適切に摂り、脳と筋肉を動かすエネルギーを確保することが、充実したリハビリと身体機能の回復につながります。

神経の働きと骨の健康を支える栄養素
- ビタミンB群(B1・B6・B12): 糖質からエネルギーを作り、神経伝達物質の合成や神経の維持を支える栄養素です。不足すると、疲れやすさや神経機能の低下につながることがあります。豚肉、魚、レバー、あさり、玄米などから摂取できます。
- カルシウム+ビタミンD: 麻痺側は活動量や荷重が減り、骨密度が低下しやすくなります。カルシウムは骨の材料となり、ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を助け、骨の維持を支えます。転倒した際の骨折リスクを減らすためにも、乳製品、小魚、きのこ類などを食事に取り入れ、適度な日光浴も心がけましょう。
3. 脳と神経の結びつきを取り戻す「脳活性アプローチ」
手足を動かす訓練と同じくらい大切なのが、脳に残された神経回路が働きを補い、動作に必要な新たなつながりを形成していくことです。脳には、損傷によって失われた機能を、残された神経回路の働きや変化によって補おうとする力(神経可塑性)があります。この働きを支え、リハビリを継続するためには、脳や神経の機能を維持する栄養素を、食事から十分に摂ることも大切です。
神経線維の修復を助ける「ビタミンB12・葉酸」
脳からの指令を筋肉に伝える末梢神経は、電気信号を運ぶ電線のような役割を果たしています。この神経が正常に働くためには、神経そのものを健康に保つことが大切です。そこで重要なのがビタミンB群です。特にビタミンB12は神経の維持を支え、葉酸は新しい細胞を作る働きを助けます。これらの栄養素が不足しないよう、日々の食事からしっかり摂ることが大切です。
おすすめ食材と取り入れ方
- ビタミンB12: アサリ、シジミ、サバ、イワシ、レバーなど
- 葉酸: 焼き海苔、ほうれん草、ブロッコリー、枝豆など
具体例: アサリやシジミの味噌汁に、ほうれん草を加える。サバやイワシの焼き魚に焼き海苔を添える。このようにして、ビタミンB12と葉酸を一緒に摂る工夫をすれば、相乗効果が期待できるでしょう。

脳細胞の炎症を鎮める「抗酸化物質」
脳卒中の後には、活性酸素による「酸化ストレス」が生じ、脳の細胞にダメージを与えることがあります。体にはこうしたダメージから細胞を守る仕組みがあり、ポリフェノールやビタミンC・Eなどの抗酸化物質も、その働きを支えています。
おすすめ食材取り入れ方
- ポリフェノール:アサイー、ブルーベリー、緑茶、赤ワイン、高カカオチョコレート(カカオ70%以上)
- ビタミンC・E:パプリカ、キウイ、ナッツ類(アーモンドなど)
具体例:日常生活での工夫: 普段のおやつをアーモンド数粒やブルーベリーをのせたヨーグルトに変えたり、食後に温かい緑茶を1杯飲む習慣をつけるのが効果的です。
リハビリ効率を左右する「食事のタイミング」
脳の神経可塑性を促し、リハビリの効果を引き出すには、訓練中の集中力や覚醒状態を保つことが大切です。そのためには、食事とリハビリのタイミングにも気を配りましょう。
食事をとりすぎた直後は、眠気や胃もたれによって集中しにくくなることがあります。一方、空腹が強いと、疲労感やふらつきが生じ、訓練に集中できない場合があります。食後は体調に合わせて時間を空け、空腹が強い場合は軽食などで調整することで、無理なくリハビリに取り組める状態を整えましょう。
実践のコツ: 食事はリハビリの1〜1.5時間前までに済ませる。空腹時であれば、リハビリ前にバナナやゼリー飲料など、胃に負担をかけない糖質を含んだものを補給します。血糖値を安定させて、脳の集中力を維持させます。

最後に
どれほど熱心にリハビリを重ねても、材料がなければ家が建たないのと同じで、栄養が不足した状態では神経も筋肉も本来の回復力を発揮できません。
血管を守る「守りの食事」、筋肉を育てる「攻めの食事」、そして神経をつなぐ「脳活性の食事」。
食事は、リハビリの土台そのものです。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
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この記事を書いた人

矢澤 大輔 鍼灸師
修士号(医科学)取得
臨床歴20年。入社以来、主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設から鍼施術を担当しています。東洋医学的な考えと西洋医学的なアプローチを合わせて施術を行います。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。