行動経済学にみる脳梗塞リハビリ

2022.12.09
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行動経済学とは

人間はつねに、合理的に判断して動くことを前提としている経済学という学問があります。しかし、実際には非合理的なことやムダなことをしています。人間の感情や心の動きが行動の重要な要素となっているからです。行動経済学とは、心の働き方を重視して経済の動きを読み解いていく比較的新しい学問です。

※参考文献  池上彰の「行動経済学入門」

これは経済の話だけでなく、人間の行動パターンにも影響しています。脳梗塞患者さんのリハビリを例に、どのような行動心理であるのか、行動経済学の観点から解説します。

リハビリをやれば身体が良くなるとわかっていたらどうするか?

人は直感で意思決定を行っています。これをヒューリスティックといいます。人は1日5万回の意思決定を行っていると言われておりほとんどがヒューリスティックです。朝起きる。着替える。ご飯を食べる。歯を磨く。筋トレする。家を出る。これらは、考えることなく瞬時に行う行動です。逆に考えて答えを出すことをシステマティックといいます。熟考型です。

さて、上記の質問をされたときに直感の答えはみなさん「やった方が良い」です。一方で、乗り気ではない人もいます。

そこにはどんな考えが影響してくるのでしょうか、プロスペクト理論というものが入ってきます。これは、人は損をしないような行動をとることを最優先するというものです。

具体例を挙げると、現状身体は不自由だが、介護サービスも充実している。周りの人が何でもやってくれている。自分は車椅子に座っているだけで良い。その状況の場合、体が良くなりこのサービスが変化することを損ととらえます。大変なリハビリをするくらいならこのままがいいと考えます。これを現行バイアスといいます。現行バイアスは今の状態を得とし、変化を嫌います。高齢の介護世代に多い思考です。

自費リハビリサービスと聞いたときにどう考えるのか?

我々は自費でリハビリを提供しています。保険サービスに比べると実費になりますので「高い」と感じる方はいらっしゃいます。人は良くなることより良くならなかったことが印象に残る傾向があります。変な言葉になりますが、「よくならないようにならないようにしよう」という行動意思が働いてきます。

リハビリはやった方がいいと頭では思っていても、これだけのお金を払ってよくならなかったらどうしよう。という損失回避の意思が働き、一歩目を躊躇させてしまうのです。費用対効果という、支払った値段に対してどれだけ効果が生まれるのかという計算も頭で行います。利得の嬉しさと、損失の悲しみを現した価値関数によると、同じ1万円でも、もらった喜びを1とすると、なくした悲しみは2.25という数値があります。なくした方が2倍印象に残るようです。それだけ、人は損をしたくない生き物なのです。

図 どさんこ北国の経済教室 参照

「リハビリは長い道のりです」と言われたら何を思うのか

脳梗塞リハビリは、麻痺の程度にもよりますが、長い道のりとなります。自分の体を病気以前に近づけるために、リハビリはかかせません。

それを聞かされた時どんなことを思うのでしょうか。人は将来の利得よりも現在の利得を重視する、時間的選好の性質があります。リハビリは一生という言葉があります。それだけ先の見えないゴールに向かって時間を費やすと思ったとき、リハビリで得られる効果が時間をかけるわりに弱いと考えてしまいます。やらないでもこのままでなんとかなる。自然に回復すると頭で変換してしまいます。そして、やらないという選択をしてしまいます。

言い換えれば、短い時間で良くなると、断言されればポジティブな思考となります。

リハビリが経過するほど効果を感じにくいのはなぜ?

実際にリハビリを始めて、数か月が経過すると感じる感覚です。また、実際に動きは良くなっているのに「良くなっている気がしない」と感じてしまうのはなぜでしょうか?これも行動経済学の分野で説明がつきます。

人はわずかに不確実だったものが確実なものになることを大きく評価する傾向があります。これを確実性効果といいます。全く動かなかったものが動くようになったときに大きな喜びを感じるというものです。0だったものが1になるのと、5が6になるのとでは、前者の方が効果を実感しやすいのです。

リハビリがある程度進んで、次の動作を作り出そうとする際はそのような傾向があります。

同じ脳梗塞後遺症の方が気になってしょうがない。

あの人はどんな症状?私よりずっと身体動きますよね?特に自分より麻痺レベルが軽い人が気になる傾向があります。

脳梗塞になったことで、自分たちは脳梗塞患者というマイノリティに属すと考えるようになります。

すると、その枠組み内で暮らしている人たちが気になるようになります。そして、自分より体が動く人がどんなリハビリをしてきたのか?。どんなものを使用しているのか?。どんな生活をしているのか?。同じことをしたいと思うようになります。(同調効果)そういった成果があるものはハロー効果と言われ、実績があるから間違いないだろうと受け入れることができるのです。

今回は心理的影響が行動に同のように影響するのか、行動経済学の視点から考えてみました。

これは脳梗塞患者さんに限らず、すべての人に当てはまります。人はなぜ、それを選択するのか、または選択しないのか。

それには学術的な意味があると考えると面白いですね。

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