日本では、脳梗塞は毎年1万人以上が発症しており、その後遺症の一つとして「麻痺」が多くの方に影響を与えています。
脳梗塞による麻痺は、患者の日常生活やリハビリにおいて大きな課題となっています。
本記事では、脳梗塞によって麻痺が発生するメカニズムについて、つい最近発症してしまった方、ご家族の方にもわかりやすく解説します。
発症して時間経過をしている方でも、脳梗塞の発症から麻痺が起こるまでの流れを知ることで、症状の理解を深め、リハビリの重要性について再認識するきっかけになればと思います。
麻痺とは
皆様の思っている麻痺とはどのようなものでしょうか?
「手足が動きにくい」が麻痺と聞いて一番思い浮かぶのではないでしょうか。
皆様の認識の中では「動きが悪くなる」という「運動麻痺」が一般的な麻痺として知れ渡っています。
「麻痺」とは手足の動きにくさだけではなく、触っている感覚や力の入る感覚がわからなかったり、痺れや痛みが強く出ていたりということも麻痺にあたります。
今回はこの運動麻痺に焦点を当てて解説をしていきます。
脳梗塞とは
脳梗塞の種類
まず、脳梗塞は脳内の血流が何らかの理由で遮断され、脳細胞が酸素や栄養を受け取れなくなることで発症します。
脳梗塞には主に以下の3つのタイプがあります。
- ⒈アテローム血栓性脳梗塞
動脈硬化によって血の塊が形成され脳の大きな血管が詰まってしまう脳梗塞 - ⒉心原性脳塞栓症
心臓でできた血の塊が脳の血管に詰まって起きる脳梗塞 - ⒊ラクナ梗塞
小さな血管が詰まって起きる脳梗塞
脳梗塞後起きる症状を部位別に解説しているのはこちらから👇
日本における脳梗塞の現状
脳卒中データバンクのデータによると、日本では令和4年に新しく発生した脳血管障害の73%が脳梗塞だったと報告されています。
「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握」報告書2023年(日本脳卒中データバンク)
また、脳梗塞は高齢化社会に伴い発生数が増加する傾向にあります。
この現状から、脳梗塞による後遺症への対策が重要視されています。
脳梗塞によって麻痺が発生する原因
脳の構造と機能
脳は、大脳、脳幹、小脳などの部位から構成されており、それぞれ異なる役割を持っています。
運動機能を司る「運動野」は、大脳皮質の前頭葉に位置しており、身体の各部位への指令を出す重要な役割を果たします。
運動野から脊髄、筋肉まで身体を動かす神経が通っており、脳からの指令がその経路(神経伝達路)を通ってさまざまな動きができています。
血流不足と脳細胞の損傷
脳梗塞が発生すると、詰まった血管の先に酸素と栄養が届かなくなり、脳細胞が短時間で損傷を受けます。
この損傷が、運動野やその神経伝達路の周辺部位に及ぶと、身体の動きや感覚を制御する神経が破壊され、運動麻痺が引き起こされます。
損傷する部位によって、感覚麻痺等のその他の麻痺が発生します。
運動麻痺が発生するメカニズムの詳細
運動野の損傷
運動野は、大脳皮質の前頭葉に位置し、手足や顔などの特定の部位の動きを制御しています。
脳梗塞によってこの部位が損傷を受けると、その指令系統が遮断され、運動麻痺が生じます。
通常、実際の手足とは逆の脳が身体の動きを司っています。
これは、運動を司る神経伝達路が延髄と言われる場所で左右入れ替わるため、損傷された方とは逆の手足に麻痺が見られるのです。
神経伝達の障害
脳と身体の各部位をつなぐ神経伝達路も、脳梗塞の影響で機能が低下します。
これにより、脳からの指令が筋肉に届かなくなり、動作ができなくなるのです。
イメージとしてはテレビゲームなどのコントローラーがイメージしやすいです。
ケーブルが断線してしまうと信号が届かずに、テレビの中のキャラクターは動きませんよね。
運動麻痺の種類と症状
弛緩性麻痺
弛緩性麻痺は、筋肉の力が抜け、筋緊張が低下した状態を指します。
このタイプの麻痺は、脳梗塞による神経伝達障害の結果として、筋肉が収縮するための信号がうまく伝わらないことで発生します。
脳梗塞初期に起きることが多く、手足が脱力してしまい全く動かないことが多いです。
弛緩性麻痺は筋肉を回復させるための適切なリハビリテーションが特に重要です。
痙性麻痺
痙性麻痺とは、筋肉が硬くこわばる状態の麻痺を指します。
脳梗塞後、損傷を受けた脳や脊髄の神経回路が正常に機能しなくなることで、筋肉の緊張を調整する仕組みが崩れ、筋肉が常に収縮しやすくなるのが主な原因です。
痙性麻痺は日常生活に大きな影響を与えることがあり、適切なリハビリや治療が必要です。
ストレッチや装具の使用、場合によってはボツリヌス注射や薬物療法が用いられることがあります。
脳梗塞による麻痺への対応
リハビリテーション
脳梗塞後の麻痺の改善には、リハビリテーションが欠かせません。
運動療法や作業療法を通じて、神経の再生や筋力の回復を目指します。
早期にリハビリを開始することで、麻痺の程度を軽減する可能性が高まります。
神経可塑性(しんけいかそせい)
運動の刺激を送る神経回路が全て断線してしまったら、手足が全く動かせなくなってしまいます。
しかし、神経経路が断線してしまっても、損傷していない他の脳領域や神経経路が失った機能を手助けしてくれるようにプログラムされています。
これを神経可塑性(しんけいかそせい)と呼んでいます。
神経可塑性を促すためには、運動を繰り返し行う必要があります。
この神経可塑性を積極的に狙っていくのが当院でも行っている「川平法」になります。
川平法を実際に行っている訓練場面の動画についてはこちらから👇
医療的治療
医師の判断に基づく薬物療法や、特定の症例では手術も検討されることがあります。
痺れや痙性麻痺については薬での調整が大切になってきます。
また、日常生活の活動度合いに合わせて提案されていきます。
自己ケア
自分自身による自己ケアも大切です。
関節が固まってしまわないようにストレッチを行ったり。
少しでも動かせる方は、筋肉を動かすことで神経回路の回復を促すことができます。
症状の重症度に応じて適切な自己ケアができるように、理学療法士や作業療法士に方法を聞いて実践してみましょう。
麻痺の発生を防ぐために
脳梗塞による麻痺を予防するには、早期発見と生活習慣の改善が鍵です。
血圧管理や糖尿病予防、禁煙、適度な運動など、リスク因子を減らすことで、脳梗塞の発症を防ぐことが可能です。
まとめ
脳梗塞によって麻痺が発生するメカニズムは、脳の構造や神経伝達の仕組みと密接に関係しています。
麻痺が起こる仕組みを理解し、適切な治療とリハビリを行うことで、症状の改善や生活の質の向上を目指すことができます。
脳梗塞に対する正しい知識を持つことが、麻痺への対応の第一歩です。
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この記事を書いた人
松浦 一将 理学療法士
JBITA公認 成人片麻痺基礎講習前講習1、2修了
大学卒業後、回復期リハビリ病院へ入職。主に脳梗塞・脳出血の患者様のリハビリを担当。同病院で訪問リハビリも経験させて頂き、より患者様の「生活」に近い場所でリハビリに携わってきました。2022年ハート脳梗塞リハビリ・ラボへ入職。「麻痺をよくしたい」という方はもちろん、前職の経験も活かし、目標に向けた最適な自主トレや運動方法のご提案、情報提供も行っています。 皆様の何気ない「笑顔」を大切に、目標を達成して共に成長できるよう全力でサポートさせて頂きます。