日本では、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管障害で病院を訪れる人が約19万人ととても多く、その後遺症に悩まれる方も少なくありません。※1
※1:政府統計の総合窓口「患者調査 令和2年患者調査 確定数 全国編 報告書 」
特に後遺症による「痛み」は、生活の質を著しく低下させる重要な問題です。
この痛みは、脳梗塞の後遺症として神経や筋肉に異常が生じることで発生し、場合によっては長期間続くことがあります。
この記事では、脳梗塞後遺症の痛みの原因と対処法について詳しく解説します。
現状の理解と適切な対応策を知ることで、痛みの軽減や回復が見込めます。
脳梗塞後遺症の痛みとは
脳梗塞は、脳内の血管が詰まり、脳の一部が酸素不足になることで損傷が生じます。
その結果、身体の一部に麻痺や感覚の異常が発生し、後遺症として残ることがあります。
その中でも、「痛み」は特に厄介な症状の一つです。
この痛みは身体の特定の部位に限らず、半身全体など広範囲にわたることがあります。
脳の損傷が原因で発生する痛みは、一般的な外傷による痛みとは異なります。
神経が誤った信号を送ることによって引き起こされる「神経障害性疼痛」(しんけいしょうがいせいとうつう)が主な原因です。
痛みが発生するメカニズム
神経障害性疼痛
脳梗塞後遺症による痛みの中でも特に多くみられるのが「神経障害性疼痛」です。
これは、脳梗塞によって損傷を受けた脳が、痛みを誤って認識し続けることによって生じます。
本来痛みを感じないような刺激や動作に対して、脳が痛みを感じる信号を送ってしまうため、慢性的な痛みが続くことが多くなります。
このような痛みは、通常の鎮痛薬では効果が薄いため、特別な治療が必要とされます。
筋肉・関節の痛み
脳梗塞による麻痺や筋力の低下は、筋肉や関節に過度の負担をかけることがあります。
例えば、肩関節の亜脱臼による痛みが多くみられるかと思います。
肩関節亜脱臼の原因と対処法については下の記事も参考にしてみてください。
その他にも、股関節や膝、足首、腰などに痛みが出現することもあります。
これらの痛みは、長時間の不自然な姿勢や動作の繰り返しによって二次的に引き起こされることが多く、特に麻痺がある場合には痛みが慢性化する傾向があります。
痛みが出る部位とその原因
肩の痛み
脳梗塞後遺症による肩の痛みは、特に肩関節の動きが制限されることが原因です。
肩がうまく動かせないことで、肩関節周囲の筋肉や腱が硬くなってしまいます。
その結果として「肩関節周囲炎」や「肩関節亜脱臼」が発生します。
この状態が続くと、激しい痛みを感じることが多く、日常生活に支障をきたします。
手足の痛み
手や足に痛みが出る原因は、主に麻痺による筋肉の異常な使い方にあります。
脳梗塞後、麻痺が残ると正しい歩行や手の使い方ができなくなってしまうため、特定の筋肉に過剰な負荷がかかります。
これが「筋肉痛」や「関節痛」として現れることが多いです。
手や足の痛みの中には、関節が固まって動きにくくなる拘縮(こうしゅく)が起きると、動かす際に強い痛みを発する場合もあります。
頭痛
脳梗塞後の頭痛は、主に脳の血流障害やストレスが原因とされています。
特に緊張型頭痛や偏頭痛が発生しやすく、日常生活に大きな影響を与えます。
脳梗塞後遺症の痛みに対する対処法
リハビリテーション
リハビリテーションは、痛みの軽減に非常に重要な役割を果たします。
理学療法や作業療法を通じて、筋力の回復と関節の可動域を改善することで、痛みを引き起こす要因を取り除くことができます。
痛みの発生している部分はもちろん、痛みの原因となる部分を特定してリハビリをすることが大切です。
薬物療法
神経障害性疼痛の場合、一般的な鎮痛薬では効果が不十分なことが多いです。
このため、抗うつ薬や抗けいれん薬が用いられることがあります。
これらの薬は、神経の誤った痛みの信号を抑える働きを持ち、痛みの緩和に効果的です。
また、痛みが特に強い場合には、神経ブロック注射やボトックス注射も考慮されます。
rTMS療法(反復経頭蓋磁気刺激法)
rTMS療法は反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)と言われています。
磁気刺激で脳の特定部位を活性化させ、脳血流量を増加させることで低下した機能を改善させていきます。
副作用も少ないことで注目を集め、薬物療法でも効果がなかった方にも効果は見られるようです。
その他の治療法
リハビリや薬物療法だけで痛みが改善されない場合には、電気刺激療法や鍼灸治療など、他の治療方法が検討されることがあります。
ハート脳梗塞リハビリ・ラボでは、神経障害性疼痛に対する鍼治療も行っています。
痛みの軽減に役立つ日常的なケア
脳梗塞後遺症の痛みを軽減するためには、日常生活でのケアも重要です。
例えば、正しい姿勢を保つことや、特定の部位に負担のかからない運動を継続することが痛みの予防に役立ちます。
また、温熱療法やマッサージを取り入れることで、筋肉の緊張をほぐし、痛みを和らげることもできます。
最後に
脳梗塞後遺症による痛みは、患者にとって大きな負担となりますが、適切なリハビリテーションや治療を受けることで症状を軽減し、日常生活を改善することが可能です。
神経障害性疼痛や筋肉・関節の痛みを理解し、個々の症状に合わせた対処法を実践することが、回復への道を開く第一歩になります。
継続的なケアを行い、痛みをコントロールしながら生活の質を向上させることが重要です。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
ご予約はお早めに!
この記事を書いた人
松浦 一将 理学療法士
JBITA公認 成人片麻痺基礎講習前講習1、2修了
大学卒業後、回復期リハビリ病院へ入職。主に脳梗塞・脳出血の患者様のリハビリを担当。同病院で訪問リハビリも経験させて頂き、より患者様の「生活」に近い場所でリハビリに携わってきました。2022年ハート脳梗塞リハビリ・ラボへ入職。「麻痺をよくしたい」という方はもちろん、前職の経験も活かし、目標に向けた最適な自主トレや運動方法のご提案、情報提供も行っています。 皆様の何気ない「笑顔」を大切に、目標を達成して共に成長できるよう全力でサポートさせて頂きます。