脳梗塞で片麻痺になってしまったら: 鍼灸とリハビリで回復の道

2025.06.11

 脳梗塞になってしまうと、一定割合で後遺症が残ります。片麻痺という言葉はご存じでしょうか。

 この記事では、脳梗塞によってなぜ片麻痺になるのかを解説したうえで、なぜ回復が目指せるのかお伝えします。そして、鍼灸とリハビリテーションが片麻痺の回復にどのように効果的なのか、さらにご自宅で注意すべきことをお伝えします。片麻痺に悩むすべての方への情報源として役に立てれば嬉しい限りです。

「脳梗塞」や「片麻痺」という言葉は聞くけれど、具体的に自分の体で何が起きているのか、分からない方もいらっしゃるかもしれません。まずは、そのメカニズムからご説明しましょう。

 脳梗塞とは、脳の血管が詰まることで脳の一部に血液が届かなくなり、その部分の脳細胞が死んでしまう病気です。脳細胞は体の動きや感覚、言葉、思考など、あらゆる機能を司っています。そのため、脳梗塞が起きると、損傷した部位に応じた様々な症状が現れてしまいます。

 脳梗塞による症状の中でも、特に多く見られるのが「片麻痺」です。これは、体の片側に運動麻痺の症状が出る状態を指します。具体的には、手足の動きが制限されたり、力が入りにくくなったり、感覚が鈍くなったりします。

 では、なぜ脳の損傷によって体の反対側に麻痺が出るのでしょうか? 私たちの脳から手足を動かす指令を送る神経の通り道を「錐体路(すいたいろ)」と呼びます。この錐体路は、神経線維の束であり、脳から脊髄へと下降する途中の「延髄(えんずい)」という部分で、90%が左右交差(錐体交差)しています

 つまり、右の脳が損傷すると左半身に、左の脳が損傷すると右半身に麻痺が現れるのはこのためです。片麻痺は、体の片側だけの問題のように見えますが、実際には脳という司令塔の損傷によって引き起こされていることを理解することが、回復への第一歩となります。

 片麻痺と一口に言っても、その症状や程度は人それぞれです。ここでは、麻痺がどのような状態にあるのかを理解するためのポイントをお伝えします。

 脳梗塞発症直後の麻痺は、手足がだらりとして全く力が入らない「弛緩性麻痺(しかんせいまひ)」であることが多いです。しかし、時間が経つにつれて筋肉がこわばり、関節の曲げ伸ばしがしにくくなる「痙縮(けいしゅく)」という状態が現れることがあります。この痙縮を伴う麻痺を「痙性麻痺(けいせいまひ)」と呼びます。

 痙縮は、日常生活動作を妨げるだけでなく、痛みや関節の変形を引き起こすこともある厄介な症状です。しかし、適切なアプローチでこの痙縮をコントロールし、運動麻痺の改善を促すことが可能です。

運動麻痺以外にも、脳の損傷部位によっては様々な症状を合併することがあります。

感覚障害:触覚や温痛覚が鈍くなる、しびれる

構音障害:言葉が不明瞭になる

嚥下障害:飲食物をうまく飲み込めなくなる

高次脳機能障害:失語症(言葉が出にくい、理解しにくい)、半側空間無視(片側が見えない、気づかない)、注意障害など

これらの合併症は、片麻痺のリハビリと並行して専門的なアプローチが必要です。多角的な視点から症状を評価し、患者さん一人ひとりに合わせた施術計画を立てる事が求められます。

「一度脳が損傷したら元には戻らない」という話を耳にしたことがあるかもしれません。確かに、死滅した脳細胞が再生することはありません。しかし、現代医学とリハビリテーションの最も重要な概念の一つに「神経の可塑性(かそせい)」があります。

これは、損傷を受けていない脳の細胞が、失われた機能を補うために新たな神経回路を形成し、機能を再構築する能力を指します。例えるなら、一本の道が通行止めになっても、別の道が新しく作られ、目的地へ到達できるようになるようなものです。

この神経ネットワークの再構築を促すためには、「適切で集中的なリハビリテーション」が不可欠です。脳への刺激を繰り返し与えることで、脳は新たな学習を始め、眠っていた機能や他の脳の領域が活動を高めることで、失われた機能を再び獲得していく可能性があるのです。

 当施設では、この神経の可塑性を最大限に引き出し、患者さんが「動く喜び」を取り戻すために、リハビリテーションと鍼灸を組み合わせた独自の施術を提供しています。

 医師である川平和美先生が開発した日本初のリハビリ方法です。セラピストが麻痺した手足を誘導させ、繰り返し集中的に動かすことで、脳内の運動神経回路を再構築し、麻痺の改善を促します。 この方法の最大の強みは、脳への入力と出力のフィードバックを重視し、効率的に神経回路を活性化させる点にあります。麻痺が強く、自分では動かせない場合でも、この促通の技術を用いることで、脳に「動く感覚」を直接的に伝えることが可能になります。

 イギリスで提唱されたリハビリテーション概念で、患者さん一人ひとりの状態を詳細に評価し、「正常な運動パターン」を促すことを目指します。麻痺によって生じる不自然な動き(代償動作)を抑え、より効率的で滑らかな動作を引き出すことに重点を置きます。 例えば、肘が曲がってしまう、足首が固まってしまうといった痙縮に対して、全身の緊張バランスを整えながら、手足の分離運動を促します。これにより、日常生活での動作がスムーズになり、二次的な痛みや負担の軽減にも繋がります。

 私たちは、この川平法とボバース法を患者さんの状態に合わせて最適に組み合わせることで、それぞれの特性を最大限に活かし、麻痺の改善を強力にサポートします。

 リハビリテーションに加えて、当院が特に力を入れているのが「鍼施術」です。単なる筋肉の緩和だけでなく、脳の活性化に特化した鍼施術を実践しています。

 頭の特定のツボに鍼を刺すことで、そのツボと関連する脳の領域を間接的に刺激する治療法です。例えば、運動機能を司る領域に対応する頭皮のポイントに鍼を打つことで、脳への血流を改善させ、神経細胞の活動を促進する効果を狙っています。 これにより、リハビリテーションで引き出そうとしている脳の可塑性を、鍼の力でさらに後押しすることが可能になります。麻痺した手足に直接的な効果を感じにくい場合でも、頭皮鍼によって脳からアプローチすることで、回復のきっかけが生まれることがあります。

 中国で開発された、脳卒中後遺症の治療に特化した鍼灸手技です。特定のツボに深く正確に鍼を刺し、強い刺激を与えることで、脳の覚醒を促し、閉塞した機能の回復を目指します。 「脳を覚ます」「穴を開く」という意味を持つこの治療法は、特に麻痺が重度の方や、意識レベルの改善が必要な方に対して効果を発揮することがあります。経験豊富な施術者が、患者さんの状態を綿密に把握した上で、最適なツボと刺激量を見極めます。

リハビリテーションと鍼灸、この二つの柱を融合させることで、私たちは脳梗塞による片麻痺に対して、これまでにない多角的なアプローチを提供しています。手足の直接的な動きの改善だけでなく、脳そのものに働きかけることで、より本質的な回復を目指します。

リハビリは、私たちの施術だけでOKというわけでなく、ご自宅での取り組みも欠かせません。重要なのは、「ただ動かす」のではなく、「意識して動かす」ことです。

 先ほど少し触れましたが、神経ネットワークの再構築には以下の2つのポイントが重要です。

頻度依存性: 「使えば使うほど、その神経回路は強化される」という法則です。麻痺した手足でも、繰り返し意識的に動かすことで、脳は「この回路は重要だ」と認識し、強化しようとします。

環境依存性: 「様々な状況で使うことで、より適応能力の高い回路が作られる」という法則です。単調な反復運動だけでなく、日常生活の中で麻痺した手足を使おうと「チャレンジ」することが、脳に多様な刺激を与え、より複雑で実用的な動きの獲得に繋がります。

 普段ご自分で自主トレを行っている方へのアドバイスとして

 「意識」を使って動きをすることをお伝えします。 例えば、麻痺した手を動かそうとする時、腕全体で持ち上げるのではなく、指先から動かすイメージを持つなど、動きの「質」を意識することが大切です。動かないものに意識を持っていく事は、地味で根気のいる作業です。鏡を見て、ご自身の動きを観察したり、健側を同時に動かしてやってみるなど工夫することも効果的です。

 大切なのは、「頑張りすぎないこと」と「効果を確認すること」です。無理な負荷や間違った動かし方は、かえって痙縮を悪化させる悪循環に陥る可能性があります。自主練習の前後で、麻痺の状態や動かしやすさが「楽になったか」を評価し、もし悪化するようであれば、すぐに専門家にご相談ください。

 当施設では、利用者さんの状態に合わせて個別の自主練習メニューをご提案しています。動画作成しお渡ししていますので、好きな時間にいつでも見返すことができます。

 この記事では、脳梗塞片麻痺について解説し、良くなるための過程と当施設のリハビリ内容を紹介させて頂きました。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

矢澤 大輔 鍼灸師

修士号(医科学)取得

業界歴15年。入社以来主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設以来鍼施術を担当しています。痛み、痙縮、痺れ、麻痺などいろいろな悩みに対して、鍼と手技でアプローチしていきます。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。