脳卒中で気を付けたい肩関節の痛み(加齢との関係)

2024.01.30

脳梗塞、脳出血などの脳卒中になると、後遺症によって約半分の方に肩関節の痛みが出現します。そのうち約35%の方に肩関節の亜脱臼があることが報告されています。脳梗塞と肩関節亜脱臼については過去ブログを参照してください。

 今回は、脳卒中にに限らず、加齢とともに肩関節に痛みが生じた際、気を付けなければいけない疾患、覚えておいた方がよい疾患を紹介します。

肩関節について

 肩関節は、上腕骨の骨頭と肩甲骨の関節窩からなる球関節です。

肩関節                                                      

 他の関節と比較して可動域が広く、いろいろな動きが可能である反面、複雑で不安定な構造のため、怪我をしやすい関節でもあります。上腕骨骨頭と肩甲骨関節窩はゴルフボールとティーのような形となっており、球に対して受け皿が非常に小さくなっています。よって肩の安定性はそれを取り巻く、筋肉や靭帯や腱に依存していることになります。

 肩関節といえば肩甲上腕関節が一般的ですが、肩の動きにかかわる関節として、肩鎖関節、胸鎖関節、烏口肩峰靭帯と上腕骨、腱板からなる機能的な肩峰下関節などがあります

肩の痛み

肩関節周囲炎 いわゆる五十肩

 五十肩という言葉は江戸時代の書物から始まったと言われています。俚言集覧という俗語を扱った本には「凡、人五十歳ばかりの時、手腕、関節痛む事あり、程過ぎれは薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕、五十肩ともいう」と書かれています。また、江戸時代の平均寿命は35~40歳なのですが、50歳まで生きていたという意味も込めて長命病ともいわれていたようです。

 中高齢にして、明らかない原因が無いにもかかわらず、肩が痛くて腕が上がらない症状が出現します。最初は動作時痛だけですが、症状が進行すると安静時痛や夜間痛が出現し、痛みで目が覚めるといった事がおきます。痛みの強さ、治癒までの期間は個人差があります。数か月で治るものから数年痛みが続く方もいます。

 日本では五十肩という言葉が一般に広まっていますが、世界的には「フローズンショルダー」といわれています。そして、現在はそれを直訳した、凍結肩という言葉が使われるようになってきています。

腱板損傷(腱板断裂)

 中高齢者がもう一つ注意しなければいけない肩の痛みが、腱板損傷(腱板断裂)です。

腱板とは上腕骨と肩甲骨を繋げるインナーマッスルの総称です。棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋の4つがあります。

 この腱板があることで肩関節が安定するのですが、損傷したり、部分的に切れてしまうことで、肩をあげることができなくなり、痛みの原因となります。腱板が切れる原因として、転倒や重たいものを持ち上げるなど急激な肩への負担があげられます。そのような明らかな外傷があればわかりやすいのですが、加齢によって徐々に腱板が擦り切れていく退行性のものも存在します。先述した凍結肩の痛みと思っていたら、実は腱板損傷であったという例は沢山あります。中高齢者で挙上時の肩の痛みが続く場合、腱板損傷を疑う必要があります。

インピンジメント症候群

 比較的若い世代でも体験する肩の痛みの原因です。肩関節痛の約30%がインピンジメント症候群といわれています。水泳を行う人にもよくみられることから水泳肩と呼ばれることもあります。インピンジメントは「衝突する」という意味で、文字通り肩を挙げた時に、骨や軟骨が衝突する、靭帯がこすれることで痛みを感じます。

インピンジメント症候群                                                       

 肩甲骨の肩峰の下には、上腕二頭筋腱、腱板、滑液包などが通っています。通常であれば、円滑に移動するのですが、繰り返し使いオーバーユースによって、腱や滑液包に炎症がおきると、肩峰などの骨に衝突してしまい、痛み症状を引き起こします。

廃用症候群(関節の痛み)

 病気や加齢によってベッドや車いすの生活が長くなると、体を動かすことが極端に減ってしまい、関節の拘縮、筋力の低下がおきてきます。そこから痛みが出現することがあります。脳卒中による亜脱臼から肩の痛みを経験する肩手症候群もこれに似た症状です。

 筋肉は、最大筋力の30%の力を使うことで筋力を維持することができます。一方で20%以下の力では筋力は低下していきます。1日全く筋活動が無いと、5%の筋力が低下するといわれています。1か月無動の状態が続くと約90%の筋力が低下します。よって、過度な安静により、体を動かさない時間を増やしてしまうと、廃用性の痛みを進行させることになります。落ちてしまった筋力をもとに戻すためには、5倍以上の時間が必要になります。常日頃から自発的に体を動かすことや、筋肉や関節のリハビリを行う事が大切です。

終わりに

 今回は中高齢者で気を付けなければいけない肩の痛みについて紹介しました。肩、腰、膝など関節は消耗品で、加齢とともに機能低下が起こりやすくなります。適度に動かして使ってあげる事が、地道ではありますが長持ちの秘訣です。

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この記事を書いた人

矢澤 大輔 鍼灸師

修士号(医科学)取得

業界歴15年。入社以来主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設以来鍼施術を担当しています。痛み、痙縮、痺れ、麻痺などいろいろな悩みに対して、鍼と手技でアプローチしていきます。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。