
脳梗塞を発症するとほとんどの方が後遺症を患います。
当事者の皆様もご家族も治したい気持ちを強く持ってます。しかし、入院中に医者や看護師、療法士などに「これ以上良くならないよ」と言われることも少なくないようです。
それでも「あきらめたくない」「もっと良くなりたい」という前向きなお気持ちの方はぜひこの記事を読んでください。
脳梗塞の後遺症はどのようなものがある?

まず始めに、脳梗塞を発症すると現れる後遺症について説明していきます。
大きく分けて6つあります。
①手足の運動麻痺
手足の運動麻痺には回復過程があります。
全く力が入らない➡曲がる方に力が入るようになる➡伸ばす方に力が入るようになる➡自由に動かせるようになる
この順番で回復をたどっていきます。
また、手足の麻痺の有無は日常生活にも大きく関わってくるため、リハビリ病院ではまず自宅に帰れるように麻痺していない手足を上手に使う方法を練習することも少なくありません。
②感覚障害
感覚とは、触れられている感覚や痛覚、手足がどこにあるのかわかる感覚など幅広く存在します。
感覚が鈍くなることもあれば、敏感になることもあります。
感覚障害は当事者の方しかわからないことであるため、周りの人に理解してもらうことが難しいかもしれません。
③嚥下障害
食べ物を飲み込みにくくなる症状で、誤嚥をすることが増えます。
誤嚥とは咀嚼した食べ物が食堂ではなく気道に入ってしまう症状です。
むせることができれば、気道に入ったものを口腔内に戻せるのでいいのですが、むせることができないと窒息になる恐れもあります。
また、肺炎になるリスクも高まります。
④構音障害
呂律が回りにくくなる症状です。人によって発音しにくい単語があります。
言葉をうまく話せないことは大変ストレスになります。
「パタカラ体操」というリハビリを行うことが最初のステップです。
⑤目の障害
複視という物が二重に見える症状や半盲という視野が狭くなる症状など多岐にわたります。
発症後長期にわたって症状が残る場合もあります。
⑥高次脳機能障害
記憶障害や注意障害、半側空間無視や失語など多種多様な症状があります。
症状がひとつだけの場合もあれば複合していることも多いです。
周りの人からは「性格が変わった」と言われることも少なくありません。
家族は理解することで当事者の方は気持ちが落ち着きます。
⑦自律神経障害
直接的な後遺症ではありませんが、多くの方が不眠や便秘などの症状が現れます。
なぜ後遺症は残ってしまうのか?

一般的に「病気」というものは病院で治療を行うことで完治し、退院できるというイメージがあると思われます。
それは、身体のなかで悪くなった部分を
手術で取り除く・修復する or 薬や放射線等で撃退する
のいずれかで処置するためです(※これらの処置も辛いものです。)
一方で、脳梗塞は脳の複雑な構造の病気になるため、
簡単に取り除くことができず、障害を負った部分の脳細胞はそのまま脳の中に残ります。
取り除くことができないため、「完治」した状態で退院することはできず「後遺症」が残った状態で退院することになります。
また、回復期病院・リハビリ病院の役割は「自宅に帰ること」としているため、後遺症が残った状態でも退院の運びとなるのです。
※回復期病院とは?と気になる方は↓こちらの記事もご覧ください。
人によって後遺症の種類・程度が違うのはどうして?

脳は大きく分けて6つに分けることができ、各場所で担っている機能が異なります。
例えば、「運動を担っている場所」「感覚を担っている場所」「感情を担っている場所」などのように分かれており、
その中でもさらに「手の運動」「足の運動」「顔の運動」「手の感覚」、、、
のように細かく分かれています。
そのため、脳梗塞と一括りで言っても、梗塞される場所によって症状は大きく異なります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また、後遺症の程度も人それぞれ異なります。
脳梗塞で障害された範囲と、機能を司っている中枢の部分がピンポイントで障害されるかどうかが後遺症の程度の大きさの分かれ目です。
例えば、脳の大きさに対してパチンコ玉サイズの梗塞か、ピンポン球サイズの梗塞か、テニスボールサイズの梗塞か
でイメージするとわかりやすいのではないでしょうか。
梗塞のサイズが小さければ小さいほど、後遺症の程度も軽くなります。
あなたはどのタイプ?
後遺症は千差万別な症状ではありますが、以下のタイプに分けることができます。
①運動麻痺タイプ
脳から筋肉に指令を出す神経が障害されることで現れます。
「動け」と命令しても動かすことが難しいことが特徴です。
また、「人差し指動け」と命令しても全部の指が動いてしまったり、肘が曲がったりと違う筋肉が動いてしまうことがあります。
②感覚障害タイプ
触られている感覚や、手足がどこにあるか認知する感覚、痛覚や温度覚などが障害されます。
感覚が鈍磨しているため、足が床についているかわからなくて怖かったり、起き上がるときに手が置いてけぼりになったりすることが特徴です。
③運動失調タイプ
腕や足を動かすことはできても、滑らかに動かすことが難しい症状です。
例えば、ボタンを押そうとしてもボタンに手を伸ばすまでに腕がブレてしまいボタンを押すことができなくなります。
また、手足だけでなく体幹の失調が生じると、座っているときも安定して座ることができず、身体が動揺してしまいます。
④筋緊張タイプ
指令通りに動かすことはできても、繰り返し動かしていると徐々に筋肉が硬くなって動かせなくなる症状が特徴です。
また、歩いているときに腕が曲がってしまったり、寝ているときにベッドに腕をつけることができなくなったりします。
⑤バランス障害タイプ
バランスを保つためには体幹の機能が大きく影響します。
「麻痺」というと手足を想像することが多いと思いますが、実は体幹も麻痺しています。
体幹は少し特別で、麻痺している手足と逆の筋肉も麻痺します(例:左片麻痺の場合は右の体幹機能が麻痺します)
体幹が麻痺することで肩の高さが左右で異なり、身体がゆがむことで手足が余計に動かしにくくなります。
⑥摂食嚥下障害タイプ
延髄と呼ばれる場所が障害されると現れます。
咀嚼した食物を飲み込むことができなくなったり、飲み込んでも食道ではなく気管に入ったりしてしまい、窒息のリスクが高まります。
そのため、食物を小さく切ったり、とろみをつけて飲み込む練習から始まります。
⑦構音障害タイプ
舌の麻痺が生じることで現れます。
呂律が回りにくくなり、流暢に話すことが難しくなります。
⑧失語タイプ
左の脳が障害され右片麻痺の場合に現れます。
相手の言っていることは理解できても、自分の言葉がうまく出てこなかったり、
話しているつもりでも、話している内容にまとまりがない状態になります。
⑨半側空間無視タイプ
右の脳が障害され左片麻痺の場合に現れやすいです。
左側の情報を認識することが難しくなります。そのため、左側のものにぶつかったり、食べ残しがあったりすることが特徴です。
⑩その他高次脳機能障害タイプ
高次脳機能障害はたくさんの種類があります。
記憶障害や注意障害(周りに注意を配れない)、固執(自分の考え以外を受け入れられない)や感情失禁(怒りやすくなったり泣きやすくなったりする)、失行(手足は動くがサヨナラのバイバイができなくなる)など多種多様な症状が現れます。
これらの症状は単独で出現することもありますが、多くの場合は複合的に出現します。
タイプによって最適なリハビリがあるって知っていましたか?

先述した後遺症の各タイプによって、実施するべきリハビリの内容は異なります。
例えば、運動失調タイプの後遺症に対して、運動麻痺タイプに適したリハビリを行っても効果が薄いということです。
リハビリラボの利用者の紹介
最後に、当院に来院された利用者の改善事例をご紹介します。
【疾患】脳梗塞 左片麻痺
【発症】約1年半前
【通院期間・頻度】約1年・週1~2回
【タイプ】①運動麻痺タイプ+②感覚障害タイプ+④筋緊張タイプ+⑤バランスタイプ+⑨半側空間無視タイプ
【リハビリ】
様々な後遺症が現れていました。その中でも優先順位をつけ、まずは運動麻痺とバランスに着目しリハビリを開始しました。
最初は、重たい金属装具を使用して歩かれていました。来院し約半年で軽いプラスチック装具に変更でき、現在は裸足歩行の練習にも取り組まれています。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
ご予約はお早めに!
この記事を書いた人

杉山 一輝理学療法士
JBITA公認 成人片麻痺基礎講習会修了/川平法 入門編講習会修了
大学卒業後 リハビリ専門病院に入職。主に脳梗塞・脳出血の患者様のリハビリを担当。経験年数で評価されやすい業種だからこそ、新人時代から技術の質と学ぶ密度にこだわってきました。院内で積極的に勉強会を開き先輩・後輩関係なく、学んだ技術・知識を伝達しました。2021年 ハート脳梗塞リハビリ・ラボに入職。「リハビリ難民」の方々、特に「麻痺を良くしたい」「今のリハビリでは物足りない」と思っている方々に満足いただけるサービスを提供できるように全力を尽くします。