脳梗塞による後遺症として、視覚障害があります。視野の一部が見えにくい、見えなくなる視野欠損という状態は、日常生活に大きな影響を与えます。実際に視野の半分が見えなくなってしまう半盲というものがあります。また、ものが二重に見える複視も後遺症の一つとして存在します。
視覚に障害はないものの、左半分の視界情報が認識できなくなる半側空間無視は、損傷部位によっては80%の発症率といわれています。今回の記事では、脳梗塞によってなぜ視覚障害が生じてしまうのかを解説します。最後に、ラボで行っている視野障害の方へのリハビリの事例を紹介します。
物を認識するまでの流れ
視覚障害の解説の前に、目で「物」を見てから、脳で「物」確認するまでの流れを簡単に説明します。
目に入った光が角膜と水晶体を通過し、網膜に像を結びます。網膜にある視細胞が光を電気信号に変換します。電気信号は視神経を通って、大脳の後頭葉にある視覚野へ送られ、「物」として認識されます。この信号の通り道を視覚路といいます。視覚路は側頭葉から大脳基底核、後頭葉を通ります。脳梗塞でこれらの通り道が障害されると信号が届かなくなり視野欠損などの視覚障害が現れます。
脳梗塞における視野欠損とは
前述したとおり、脳梗塞が原因で「視覚路」が障害された場合、眼からの情報が大脳に届かなくなります。ただし、目と大脳を繋げている神経線維は1本では無いため、他の神経線維がつながっていれば見える範囲が狭くなる「視野欠損」という状態になります。視界のどちらか半分が見えなくなってしまうのが同名半盲という状態。視界の1/4がかける状態が四半盲。全体としての視野は変わらないものの、一部分だけ見えにくい、見えない、という視野欠損の状態も存在します。
一方で、網膜剥離や緑内障などで視野欠損が起きる事があります。こちらは脳ではなく、目に原因がありますので、メカニズムとしては別の病態となります。
視野欠損の種類
同名半盲 視界の半分が見えなくなる状態です。両目に同じ側の視野が見えるのが特徴です。脳の視覚路、後頭葉の損傷で見られます。
異名半盲 両目の視界の内側または外側が欠ける状態です。両目の外側の視界が欠ける両耳側半盲。両目の内側部分が見えなくなる両鼻側半盲があります。視交叉の損傷でみられます。
四半盲 視界の1/4がかけている状態です。視放線の損傷が原因となります。
脳梗塞における視野欠損の予後とリハビリ
視界の障害は、発症直後に症状が強くなります。その後改善傾向がみられますが、後遺症として残ってしまうケースがあります。脳の視覚中枢や視神路が損傷されると、完全に元通りに回復するケースは少ないようです。ただ、リハビリや適応訓練を行うことで、見落としが減る、欠けた視野を補うための動作が習慣化するなど、日常生活への支障を軽減できる可能性があります。また、欠けた視野を補うための代償手段で、音声案内や視覚補助デバイス(プリズムレンズ等)を習得することで、日常生活をスムーズに過ごせるようになります。当施設でも視野欠損のリハビリを行っています。
脳梗塞による複視
脳梗塞後遺症の視野障害の一つに複視があります。複視は、物が二重に見えてしまうことです。
複視には、片方の目で見た時に二重になる単眼性複視と、両目で見た時に二重になる両眼性複視があります。脳梗塞による複視は後者で、片目で見ると複視が解消されること特徴的です。
複視の原因
眼の動きに関わる神経は動眼神経、滑車神経、外転神経の3種類です。これらは脳神経に分類され、脳梗塞によってこれらの神経中枢が障害を受けると複視になります。どの神経が損傷されたかは、目の動きを見ると判別することが可能です。
動眼神経は多方向への眼球運動に関与しており、麻痺を生じると、上、下、内側を向くことができなくなります。また、まぶたが下がったり瞳が開いたままになったりすることもあります。滑車神経が麻痺すると、下向きができにくくなります。外転神経が麻痺すると、眼が外に向かなくなります。※松山市医師会HP参照
複視のリハビリ
複視に対して、専門的な眼球運動、プリズムレンズを使用した眼鏡による治療が効果的であるという報告もあります。また、眼帯等を使用して、物理的に片目で見るようにすることで、安定した視野作りが可能です。
脳梗塞で起こる半側空間無視とは?なぜ左無視が多い
視 覚路の損傷とは違い、脳で空間を認知する機能が障害される症状に半側空間無視というものがあります。半側空間無視とは、脳梗塞により視野の一部が無意識に無視されてしまう症状です。頭頂連合野の損傷が原因であることが多いとされています。
特に右半球が損傷すると、左側の空間が無視されることが多くなります。これには空間認知においては右半球が優位であるという大脳の特徴があります。右の脳は左右の空間に意識を向ける事ができますが、左の脳は対側の右側の空間しか意識できません。よって、左脳の損傷では、右脳で左右の空間認知をカバーできますが、右脳が損傷された場合は左の空間の認知が出来なくなるのです。臨床ではよく遭遇する症状でもあります。
半側空間無視の主な症状
左側の物体に気づかない
左側の障害物にぶつかることが増える
食事で左側の料理を残す
半側空間無視の日常生活での工夫
物の配置を固定する
左側に必要な物を置く習慣をつける
左側を意識する
定期的に左側を見る癖をつける
ラボでのリハビリを紹介
50代男性 脳梗塞
病院では左下の視野に欠損があると診断されました。(左下同名半盲)
日常生活では階段を踏み外してしまう心配があり、歩行においても注意が必要でした。また、運転を再開したいという希望を持っていました。リハビリの最大の目標は、残存機能を高めて視野欠損を補う事です。そのために、眼球運動やビジョントレーニング、反射神経を鍛える動体視力強化のリハビリを行っていきました。欠損範囲の減少がみられましたが、運転再開には至りませんでした。しかし、注意力や反射神経向上によって、歩行時の不安が減少しました。リハビリを通じて、私生活に自信を持っていただけたようです。
70代女性 脳梗塞左半身まひ
左側の半側空間無視あり。慣れている場所や道であれば、左側も情報として入ってきますが、連れてこられた場所など、新しい所では左側への注意が向きにくい傾向がありました。左側に注意が向きにくい原因の一つに、不安定な歩行があります。歩く際に足が重たい、ふらついてしまうという症状があり、そちらに意識が集中してしまうようです。
リハビリは、無視を補うように左側を意識することから始めて行きました。また、歩行安定の練習も並行して行い、歩いている際でも左側に気が配れるようにしていきました。完全回復は難しい症状ですが、まずは症状を認識して、それに対処できる動作を身に着ける事で、日常生活への改善がみられます。
脳梗塞の視覚障害へのはり治療
ラボでは、脳梗塞の視覚障害に対して、運動療法だけでなく、はり治療も行っています。顔面周囲や頚部などを中心として施術を行い、血流の改善、麻痺の回復を目指します。また、東洋医学をベースとした全身治療を行い、体質改善から自然治癒力の向上を行っていきます。実際にはり治療を行ったことがある方は少なく、新し刺激、治療法としても高い期待があります。
視覚障害で不安の方は、ご相談ください。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
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この記事を書いた人
矢澤 大輔 鍼灸師
修士号(医科学)取得
業界歴15年。入社以来主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設以来鍼施術を担当しています。痛み、痙縮、痺れ、麻痺などいろいろな悩みに対して、鍼と手技でアプローチしていきます。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。