脳梗塞における感覚障害とは?ラボの事例も紹介します

2025.03.01
LINE友達追加はこちら

 脳梗塞を発症した後の後遺症で、体が動かしにくくなる運動障害はよく知られています。そのほかに、感覚障害」に悩む方もいます。感覚障害とは、触覚や痛覚、温度感覚などが正常に感じる事ができない症状のことです。 感覚障害が残ると、生活の質(QOL)が低下し、転倒やけがのリスクが高まるため、正しいリハビリが重要になります。本記事では、脳梗塞後の感覚障害の種類を解説し、当施設でのリハビリの例も紹介いたします。

感覚障害とは、脳梗塞により脳の感覚を司る領域が被害を受けることで、体の一部または全身の感覚が低下・消失する症状です。一般的に左の脳が脳梗塞になると右半身が、右の脳が脳梗塞になると左半身に症状が出現します。

発症直後は、麻痺とともに感覚が鈍くなることが多く、時間とともに回復するケースもあります。逆に最初は感覚があったが、時間がたつにつれて鈍くなってきたという例もあります。一部の患者さんでは覚異常が固定化されてしまい、生活に支障が出てしまいます。

脳梗塞による感覚障害は、主に以下のような脳の部位が影響を受けた場合におきます。

大脳の感覚野頭頂葉

 大脳皮質の中心溝の後ろ側は体性感覚野という部分で、皮膚や筋肉からの感覚情報を処理する中心的な役割を担っています。ここに障害がでると、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚に影響が出てきます。

視床

 体の感覚情報を大脳に中継する重要な役割を持つ部位です。視床の損傷で感覚情報がうまく処理されず、大脳へ間違った情報を送ることで感覚障害が起きます。また、視床痛と言われる、脳卒中後の神経障害性疼痛の原因としても知られています。脳梗塞後の、何もしてなくても焼けるような鋭い痛みは、視床の障害に原因があります。

脳幹

 感覚や運動の情報を脳と体の間で伝達する役割を担っています。大脳と脊髄を繋ぐ重要な中枢神経系の部位です呼吸や心拍、意識の維持など生命維持に重要な機能があります。また、運動や姿勢の調整も行っています。脳幹で受けた感覚刺激は、視床経由で大脳皮質に送られて情報を処理します。脳幹は、中脳、橋、延髄に区分されています。

頭頂葉
視床 脳幹

  

脳梗塞後の感覚障害には、いくつかのタイプがあり、それぞれ症状が異なります。

 皮膚への刺激を感じにくい、または過剰に感じる状態です。例えば、軽く触れられても痛みを感じたり、逆に強く押されても何も感じなかったりすることがあります。触覚障害の評価方法としては以下のものがあります。健側と患側両方の体に触れ、健側の感じ方を10としたときに、患側は10段階でいくつかを確認します。その数値をもとに、患側は何パーセント感覚が鈍い(または敏感)かを判断します。

 何もしていないのにジンジンする痛みや痛いような痛みがある。痛みの強さが一定でなく、ストレスや気温の変化で変動するといったことがあります。脳の視床が損傷を受ける事で発生する慢性的な痛みが知られています(視床痛)。一方で、感覚障害の中で痛覚が最後まで残る感覚とされています。触覚や温冷覚はわからないけど、痛覚は感じるという方が一定数います。これは痛覚が人間にとってとても大事な感覚であるという事を示唆します。

 冷たい、熱いといった温度を感じにくい、または感じやすいといった症状です。どちらかといえば、温度を感じにくい、感じない方が多く存在します。お風呂のお湯加減などが難しく、火傷の原因にもなりますので注意が必要です。実際には、健側の方で温かさを感じ、患側も同じ温度であると脳で補正することで機能を補っています。

 舌で感じた味覚は、顔面神経、舌咽神経をつたって、脳幹、間脳を経由し、大脳の側頭葉にある味覚中枢まで刺激が伝わります。脳卒中によってこの経路が損傷されると、味覚障害が起きます。舌半分の味が分からない、物が美味しくないといった症状が現れます。

 筋、腱、関節、靭帯が行う運動を感じる感覚や、それらに接触する時に感じる感覚の総称を深部感覚とよんでいます。具体的には、手や足が今どの場所にあるのか感じる位置覚。物の振動を感じる振動覚。手や足、体がどのような動きをしているのかを感じる運動覚があります。深部感覚障害に運動機能障害が伴うと、ADLの低下、リハビリの大きな障害となってしまいます。生活においては、視覚などの情報をとりいれて補正することによって、機能を補っています。

感覚障害の予後や回復期間については、発症部位、損傷度合いによって変わってきます。とりわけ予後が良いとされているのが、以下に挙げるものです。

・梗塞、出血部位が小さいもの

・症状が比較的軽いもの

・早期にリハビリができたもの

・症状が一定ではなく、日によって、時間によって変化するもの

回復が難しいとされているものは

・深部感覚障害が強いもの

・視床痛が出現している

・片麻痺が強いもの(運動リハビリが必要)

回復期間は、発症後3か月~6か月くらいがピークとされています。

一方で、6か月を経過しても、感覚障害に対する専門的なリハビリを行う事で、症状の回復が見込めます。実際に当施設でも、発症から6か月以上経過した方の感覚のリハビリを行っています。

ラボでは感覚障害に対して、鍼治療と運動療法の2つのアプローチを行います。

 鍼でツボに刺激をすることで、体の自然治癒力を活性化させます。感覚の回復には、麻痺側にいろいろな刺激を加える事が有効とされています。鍼で筋肉や神経に直接アプローチすることで、脳が新しい刺激と認識し、回復を促します。今まで受けた経験が無い方は、一つの治療手段としてお勧めいたします

 感覚障害のリハビリは、脳の可塑性を活用して感覚機能を回復させる ことを目的とします。リハビリによって、低下した感覚を刺激することで、感覚の再学習を目指します。神経の可塑性については以前のブログを参照してください。

50代男性

 動きはスムーズにできますが、触覚障害、深部感覚障害によって、動かしている感覚があまり実感できていません。自分の手がどの位置にあるのかわからなくなってしまうため、常に目で見て補正する必要もあります。シビレを伴っているため動作の妨げにもなっています。この方は鍼と運動リハビリを2回/週のペースで計16回行いました。いろいろな刺激を入れていく事で、少しづつ症状の軽減がみられました。

 この記事では、脳梗塞の感覚障害について解説しました。詳しいリハビリ状況など、ご質問がありましたら、Youtube動画などで配信していきたいと思います。感覚障害に対して、専門的なリハビリを行う事で、改善の可能性があります。あきらめかけていた方は、一度受けてみる事をおすすめします。

※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
ご予約はお早めに!

この記事を書いた人

矢澤 大輔 鍼灸師

修士号(医科学)取得

業界歴15年。入社以来主に鍼灸接骨院に勤務し、様々な痛みと向き合ってきました。リハビリラボでは開設以来鍼施術を担当しています。痛み、痙縮、痺れ、麻痺などいろいろな悩みに対して、鍼と手技でアプローチしていきます。体だけでなく、心の支えにもなれるよう関わらせていただきます。