痛みはほとんどの人が経験したことがある体の感覚です。以前慢性疼痛についてブログを記載したことがあります、鍼灸師の矢澤です。
私たちは痛みを取り除くことを仕事としています。そんな臨床の中で、この痛みはどこからきているのだろう?と疑問に思う事が沢山あります。ここが原因だろうと治療をしても効果が出ないこともあります。このブログを見てくれている方の中にも、原因不明の痛みを経験した人は少なくないと思います。その原因不明な痛みが今回のテーマです。
腰痛の80%は原因不明といわれています。腰椎、椎間板、椎間関節、筋肉、筋膜、その他どこにも明らかな原因が無いにも関わらず、腰痛が出現している人が沢山いるということです。※痛みの原因は全て姿勢だ!根本改善しますみたいな治療家には気を付けてください。
このような腰痛は心因性腰痛ともいわれ、ストレスや不安、身辺環境によって痛みが左右されることがあります。これは腰痛だけでなく、肩、膝など体全身でも起きます。また、片頭痛や歯痛の方が、背中やおなかに痛みが出る「異所性」の痛みも知られています。これも背中やお腹にはまったく原因がありません。幻肢痛や古傷が痛むという経験も良く聞きます。患部に異常が無いにもかかわらず経験するこういった痛みの原因は何でしょうか
痛みは脳が感じている
これは誰もが知っている事ですね。患部に問題が起きてから、脳に痛みが伝わるまでの道筋には大まかに二通りあります。
①傷や火傷、打撲、骨折など侵害性の刺激を皮膚の機械受容器が受けた場合は一次痛といい、太く伝達速度が速い神経が興奮し、脊髄を介して脳に痛み信号を送ります。その情報は大脳の体性感覚野で痛みとして処理されます。
②一方で、侵害受容器や慢性的な痛みは、ポリモーダル受容器が受診します。細くて伝達速度が遅い神経が興奮し、脊髄を介して脳に痛み信号を送ります。この信号は大脳皮質だけでなく、大脳辺縁系にも送られています。これを二次痛と言います。大脳辺縁系には記憶、情動、感情、呼吸などに関係する部分であります。この二次痛を放置すると、痛みと情動に深く関係するようになり、冒頭で説明した原因不明の痛みと関連が深くなってきます。これからテーマとなる扁桃体は大脳辺縁系の部位です。
※余談ですが、痛みは伝達する神経の種類によって感じ方が変化します。太い神経(Aδ線維)は伝達速度が速く、細い神経(C線維)は伝達速度が遅くなります。段差に足の小指を当ててしまった時の反応が良く例に挙げられます。想像してみてください……足の小指を最初はぶつかったくらいの感覚(触圧を伝える神経はさらに速い)があり、その後Aδ線維の鋭い痛みが小指を走ります。と感じているうちにジーンとしたC線維の鈍痛が追い打ちをかけてきます。伝える神経によって痛みの種類が違うのである意味二度おいしいのです。(恐ろしい…)
扁桃体
ストレスや不安、恐怖などの心の状態に関与しているのが扁桃体です。
どうやらこの扁桃体と、原因不明な痛みが関連性が高いという事が少しづつわかってきました。
扁桃体は大脳皮質にある神経細胞の集合体です。痛み情報やストレスなどの情報を受け取る受容体が沢山あります。ここが障害された実験動物は、痛みと環境を関連付けて記憶して適切に応答する能力を失ってしまいます。という事は、扁桃体は痛みやストレスで生じる苦しさや不快感、切なさなどに関係していると考えられます。
慢性痛の患者さんは扁桃体の活動が高まっている事がわかっています。原因不明の痛み、慢性痛などと密接に関係している事が想像できます。
ラットでの実験
研究用のラットを使用して扁桃体と痛みについて行った論文が出ています。
東京慈恵会医科大学の研究を抜粋させて頂きます。
・広汎性痛覚過敏モデルから(痛みに過敏なラット)
顔面口唇部に炎症のあるモデルラットを作成し、行動を観察すると、炎症が起きていない遠い足の裏を触れれるだけで飛び跳ねる様子がうかがえました。足には異常はありません。こういった痛覚過敏状態のラットは、右側の扁桃体中心核と呼ばれる部位の活動が高まっていました。
そしてこのラットの扁桃体中心核のニューロンを抑制すると、足の裏を触っても飛び跳ねる動作が緩和しました。
更に、炎症や障害のないラットの右脳扁桃体中心核のニューロンを興奮させると痛覚過敏が起きるのではないかという仮説をたててこれを実行させると、右扁桃体を興奮させている時にのみ痛覚過敏が生じている事がわかりました。
結語として、右扁桃体中心核のニューロンの活動が、身体の広い範囲の痛みの感度を調節していると見解を出しました。
これからの治療とは。
私自身、長い臨床経験で治療スタイルも変化していきました。現在は痛みは脳のエラーという考えのもと、エラーを作り出している要因を削っていくという作業をしています。このような研究結果は私の考えを後押ししてくれます。脳梗塞専門の治療をしている今、更にそれを強く想うわけです。※最近の姿勢が痛みの根源、歪みを治せばすべて治るという治療スタンスに疑問を持っています。
西洋医学をもってすれば、ピンポイントで脳に影響を与えることは今後可能になってくると思います。では私たちの手技療法は必要がなくなるのかと言われればそうはならないと思います。我々は筋緊張、関節、疼痛、自律神経などの身体の内部調整から、ストレス、外部環境、関わりなどによる対外環境にも変化を与えることができます。外科的な処置をせずに、あらゆる角度から苦しみの解放につなげていける可能性があります。病は気からという昔からの言葉がありますが、手技療法が何千年と歴史があるのも、心を前向きにさせる良い手段である結果だからです。患者さんから支持を得ている先生はそういったところが上手なんだと思います。一つの事に固執せず、いろいろな角度からケアできる人がこれからは必要となってくるでしょう。
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