脳卒中後の運転再開は、医師への相談→医療機関での適正評価→リハビリ→免許センター審査という流れが基本です。脳梗塞・脳出血後に運転を再開するための具体的なステップと、視野欠損がある場合の判断基準を解説します。
この記事の要約
- ① 主治医への相談
- ② 医療機関での高次脳機能・視野検査
- ③ リハビリによる機能回復
- ④ 運転適正評価(ドライブシュミレーター等)
- ⑤ 免許センターでの審査
という5つのステップを経て判断されます。自己判断での運転再開は法律違反になる場合があるため、注意が必要です。

⒈ 脳梗塞・脳出血後の運転再開は誰でもできるの?
まず知っておくべき基本
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)を経験した後、「また車を運転できるのだろうか」と不安に感じている方は少なくありません。仕事への復帰、通院、買い物など、生活のあらゆる場面での運転の必要性を感じる方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、脳卒中後でも、適切な評価を経れば運転再開が認められるケースがあります。ただし、誰でも再開できるわけではなく、医学的・法的な手続きを踏むことが不可欠です。
脳梗塞・脳出血後の運転に関する法律上のルール
道路交通法(第90条・第103条)では、「運転に支障を及ぼす病気」として脳卒中が明記されており、発症後に一定の症状が残存している場合、免許の取得・更新が制限される可能性があります。
具体的には
- てんかん発作のリスク
- 認知機能の低下
- 視野欠損
- 運動麻痺
などの症状が残っている場合は、主治医の診断書をもとに公安委員会(免許センター)が運転の可否を判断します。
⚠️重要⚠️:主治医から「運転しないように」と指示されているのにも関わらず運転した場合、事故時の保険が適用されないリスクや、刑事責任を問われる可能性があります。必ず医師の許可を得てから運転を再開してください。

⒉ 運転再開までの全体的な流れをステップごとに解説
STEP1〜5:医師への相談から免許センター審査までの道のり
脳卒中後の運転再開には、おおよそ以下の5つのステップがあります。施設や病状によって手順が異なる場合がありますが、基本的な流れとして参考にしてください。
STEP 1|主治医・リハビリ担当医への相談
まず最初に行うべきは、主治医や担当医への相談です。「運転を再開したい」という希望を明確に伝えましょう。医師はその時点での症状・回復状況をもとに、運転評価に進めるかどうかを判断します。
発症から3〜6か月以内はてんかん発作のリスクが高まる時期でもあるため、多くの病院ではこの期間の運転を禁止しています。
STEP 2|神経心理学的検査・視野検査の実施
医師の許可が得られたら、次は各種検査です。主に以下の検査が行われます。
- 神経心理学的検査(MMSE・MoCA・TMTなど):記憶・注意・判断力の評価
- 視野検査(ゴールドマン視野計・自動視野計):視野欠損の有無と範囲の確認
- 運動機能評価(BRS・STEFなど):上下肢の麻痺の程度、反応速度の評価
STEP 3|リハビリテーションによる機能訓練
検査の結果によっては、すぐに運転評価に進めない場合があります。その場合は作業療法士(OT)を中心としたリハビリで認知機能・視覚機能・身体機能の改善を図ります。
STEP 4|運転適正評価(ドライビングシュミレーターなど)
多くの病院や専門機関ではドライビングシュミレーターを使った運転適正評価を実施しています。実際の運転動作に近い環境で、ブレーキ反応・車線維持・判断速度などを総合的に評価します。一部の施設では実車評価(実際の車での評価)も行います。
STEP 5|免許センター(公安委員会)への申請・審査
主治医の診断書と適正評価の結果をもとに、免許センターに申請します。審査の結果によっては、条件付き免許(AT限定・補助装置の装着など)として認められるケースもあります。
⒊ 視野欠損があっても運転再開できる?
判断基準を正しく理解しよう
視野欠損の程度と運転可否の目安・医師との相談の仕方
脳卒中後に多く見られる後遺症のひとつが視野欠損です。視野の一部が見えにくくなる症状で、特に同名半盲(左右どちらかの視野が半分欠ける)は脳卒中患者に多く現れます。
道路交通法の視野基準は以下の通りです。
普通第一種免許
両眼で0.7以上、かつ、一眼でそれぞれ0.3以上、又は一眼の視力が0.3に満たない方、若しくは一眼が見えない方については、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上であること。
つまり、視野欠損がある場合でも、残存視野の範囲によっては運転再開が認められるケースがあります。
ただし、数値だけでは判断できない側面もあります。例えば、視野欠損があっても「自分で気づいて補う習慣(代償戦略)」が身についている場合は、安全運転が可能と判断されることがあります。一方で、視野欠損に加えて半側空間無視(見えているのに意識が向かない状態)がある場合は、より厳しい評価となります。
💡医師との相談のポイント:「視野欠損の範囲はどれくらいか」「半側空間無視の有無」「代償行動が身についているか」の3点を具体的に確認しましょう。

⒋ 運転再開を目指すためにリハビリ中にできること
リハビリスタッフと取り組む認知・視覚・身体機能のトレーニング例
運転再開を目標とするリハビリは、一般的な機能回復訓練とは少し異なるアプローチが必要です。「運転を目標にしたリハビリ」を明示することが重要で、リハビリスタッフと目標を共有した上で取り組みましょう。
①注意機能トレーニング
- 抹消課題(紙の上の線や特定の文字を素早く見つける)
- PCを使った認知リハビリソフト
- 「ながら作業」で注意分配を鍛える訓練

②視覚・視野トレーニング
- 視野代償訓練(欠損した方向へ積極的に目を向ける習慣づけ)
- 視線移動トレーニング(眼球運動の拡大)
- 視空間認知課題(パズル・積み木など)
③身体機能トレーニング
- 上肢の細かい操作訓練(ハンドル操作を想定)
- ペダル操作を想定した下肢の反応速度訓練
- AT車対応の場合は、右下肢単独での操作訓練
④ドライビングシュミレーターを活用した訓練
一部の病院・リハビリ施設では、ドライビングシュミレーターをリハビリ機器として活用しています。実際の運転に近い環境で訓練することで、自信の回復にもつながります。

⒌ 運転再開が認められなかった場合の移動手段と生活の立て直し方
公共交通・福祉サービスを活用して自立した生活を続けるために
運転再開が認められなかった場合でも、生活の質(QOL)を維持するための選択肢は多くあります。「運転できないから生活できない」と悲観せず、代替手段を積極的に活用しましょう。
公共交通機関の活用
- バス・電車・タクシーの利用
- 乗降がしやすいユニバーサルデザインの車両を選ぶ
福祉・介護サービスの活用
- 介護タクシー:介護保険を利用した移送サービス
- 患者移送サービス:通院専用の送迎サービス(自治体によって異なる)
- 訪問リハビリ・訪問診療:外出困難な場合に自宅で受けられるサービス
地域の支援制度
- 各自治体が実施する「高齢者・障害者移動支援事業」
- NPO・ボランティア団体による送迎サービス
電動車いす・シニアカーの活用
屋外の短距離移動には、電動車いすやシニアカーが有効です。公道走行も可能な種類があり、免許不要で利用できます。
💡社会福祉士や相談支援専門員に相談することで、地域で利用可能なサービスを一括して紹介してもらえます。入院中から退院支援担当者に相談しておくことをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
一般的には、発症から3〜6か月以上が経過し、症状が安定していることが最低限の目安とされています。ただし、発症後にてんかん発作があった場合は、最後の発作から2年間無発作であることが条件となるケースがほとんどです(道路交通法施行令)。早期に主治医へ相談し、個別の状況を確認することが重要です。
運転適性評価は、主に回復期リハビリテーション病院や一部の大学病院・総合病院、運転免許センター(運転適性相談窓口)で受けられます。ドライビングシミュレーターを保有している施設は限られているため、主治医や作業療法士に「運転評価を受けたい」と相談し、連携している施設を紹介してもらいましょう。
左麻痺(右脳損傷)の場合、手足の操作に関しては補助装置(左足用アクセル、手動ブレーキなど)を使用することで対応できるケースがあります。ただし、右脳損傷では半側空間無視や注意障害が起きやすく、これらの認知機能面の評価が特に重要になります。身体機能だけでなく、高次脳機能の評価を必ず受けてください。
あります。主治医の診断は医療的な観点からの意見であり、最終的な運転の可否は公安委員会(免許センター)が判断します。診断書の内容によっては追加の検査が求められたり、条件付き免許となる場合もあります。事前に主治医と「どのような診断書を書いてもらうか」を相談しておくとスムーズです。
個人差が大きいですが、検査・評価から免許センターでの審査完了まで、早くて1〜3か月程度かかることが多いです。リハビリが必要な場合は、さらに数か月の期間が加わります。焦らず段階を踏むことが、安全な運転再開への近道です。
脳卒中の後遺症は時間とともに変化することがあります。再開後も定期的な通院・検査を続けることが大切です。特に、疲れやすさ・集中力の低下・視野の変化を自覚した場合は、すぐに運転を控えて医師に相談してください。
運転再開の自費リハビリ
当院でもリハビリを行い、運転再開が可能になった事例がいくつかあります。事例について詳しく知りたい方は下記のブログをご覧ください。

また、運転再開についてのリハビリを受けてみたい方はご相談くださいね。
※大好評につきご予約がお取りできない日もございます。
ご予約はお早めに!
まとめ
脳卒中後の運転再開は、焦らず、段階を踏んで取り組むことが最も重要です。
本記事でご紹介した5つのステップ(医師への相談→検査→リハビリ→適性評価→免許センター審査)は、自身の安全と、周囲のドライバーや歩行者の安全を守るための大切な工程です。
特に押さえておきたいポイントは以下の3点です。
- 1. 自己判断で運転を再開しない:法的リスクと事故リスクがあります
- 2. 「運転再開」を目標として明示してリハビリに取り組む:リハビリスタッフと具体的な目標を共有しましょう
- 3. 再開が難しい場合も、代替手段で生活の質を維持できる:社会資源を積極的に活用しましょう
運転再開の可否にかかわらず、脳卒中後の生活を豊かにするための支援は多くあります。主治医・リハビリスタッフ・ソーシャルワーカーと連携しながら、あなたに合った生活の形を一緒に見つけていきましょう。
参考文献・情報源
- 1. 警察庁「運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について」
- 2. 警視庁「各病気等に係る運転免許の可否等の運用基準」
- 3. 警視庁「適正試験の合格基準」
- 4. 日本作業療法士協会「作業療法士による自動車運転(移動手段)支援について」
- 5. Devos H, et al. “Screening for fitness to drive after stroke: a systematic review and meta-analysis.” *Neurology*, 2011.
この記事を書いた人

松浦 一将 理学療法士
JBITA公認 成人片麻痺基礎講習前講習1、2修了
川平法 基礎講習会終了
大学卒業後、回復期リハビリ病院へ入職。主に脳梗塞・脳出血の患者様のリハビリを担当。同病院で訪問リハビリも経験させて頂き、より患者様の「生活」に近い場所でリハビリに携わってきました。2022年ハート脳梗塞リハビリ・ラボへ入職。「麻痺をよくしたい」という方はもちろん、前職の経験も活かし、目標に向けた最適な自主トレや運動方法のご提案、情報提供も行っています。 皆様の何気ない「笑顔」を大切に、目標を達成して共に成長できるよう全力でサポートさせて頂きます。