脳梗塞や脳出血のような脳血管障害を発症すると身体の半身が動きにくくなる半身麻痺が起こります。
それと合わせて発症しやすいものが、失語症(しつごしょう)や注意障害(ちゅういしょうがい)、記憶障害(きおくしょうがい)といった高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)です。
高次脳機能障害を発症する確率ベスト3に入るのが「記憶障害」になり、退院後の日常生活にも大きく関わってきます。
高次脳機能障害は外見からは判断できず、周囲の人から理解されにくい傾向があります。
今回は中でも「記憶障害」にフォーカスを当てて、当事者のみならずご家族様や職場の方にもわかりやすいよう、記憶障害の分類と対処法について解説していきます。
高次脳機能障害とは
まずは高次脳機能障害とはどのようなものなのか簡単に解説します。
高次脳機能障害とは、病気や事故などのさまざまな原因で脳が部分的に損傷されたために、言語・思考・記憶・行為・学習・注意などの知的な機能に障害が起こった状態を指す。
公益社団法人 東京都医師会 「高次脳機能障害について」引用
とされています。
具体的には
- ・注意力や集中力の低下
- ・古い記憶はあるが、新しいことが覚えられない
- ・感情や行動の抑制が効かなくなる
などが挙げられます。
「新しいことが覚えられない」という症状は記憶障害に該当してきます。
記憶障害の種類
短期記憶障害
短期間で起きた新しい情報を収容する脳の機能が低下することで、最近の出来事が記憶できなくなります。
数分から数時間といった非常に短い期間しか保持されません。どんな人でも5~9個が記憶できる限度といわれています。
例:昨日の夜食べたものがわからなくなる。
長期記憶障害
数時間から数日、あるいは数年という非常に長い期間保持される記憶で、その量もかなり膨大になります。
ある一定の部分の記憶や長期間の大部分がすっぽり忘れてしまっているのも長期記憶障害になります。
例:子供時代のことや、住んでいた場所、ある数年間の出来事がわからなくなる。
エピソード記憶障害
自身が体験した出来事である「エピソード」を、しっかりと思い出せない記憶障害です。
体験自体を完璧に忘れてしまっている場合もあれば、断片的に覚えている場合もあります。
例:昔就いていた職場での仕事内容がどんなことだったか分からない、さっき薬飲んだっけ?
意味記憶障害
言葉や物の意味を記憶することができません。
「1年は365日である」や「このペンは紙に字を書くもの」などの教科書的な知識が抜け落ちてしまいます。
意味が繋がらなくなるため、「あれ」や「それ」などの指示語が多用されます。
例:あれの首都はあれだよね。その物はあれをするための物だよね。
手続き記憶障害
何回も繰り返し同じような経験をすることで習得された、自然と体が覚えている日常作業や仕事の作業を忘れてしまうことを言います。
言語化せずに無意識にできることになる記憶のことであり、経験を積むことで動作を無意識的に、反射的にできるようなものです。
例:自転車の乗り方、ピアノの演奏、箸の使い方など
記憶障害のリハビリ
結論から言うと筋肉のように記憶は「鍛える」と言うことが難しいです。
そのため、記憶障害のリハビリでは患者さんの記憶能力と、患者さんを取り巻く環境が要する記憶能力との差を何らかの方法で調整し、日常生活や社会生活への適応を図ることです。
しかし、適切に指導・訓練することで新たな方法を記憶し、日常生活へ活かすことが可能になります。
記憶障害へのアプローチは大きく分けて4つあります。
⒈環境調整
周囲の環境に手を加えて生活や仕事をしやすくすることはすべての患者さんに必要な支援です。
具体的には、「物理的環境」、「生活全般」、「コミュニケーション」の3側面において記憶への負担がなるべく少ない環境を作ることが大切になってきます。
物理的環境例
戸棚などの収納内容をラベルにして貼る、行動の順序をチェックリストにして貼る、 行動できたらカレンダーにシールを貼って出来ているか確認をするなどが挙げられます。
ラベルやチェックリストなどの物理的な手段を用いて環境を整えていきます。
生活全般例
生活パターンや日課を決めて規則正しい生活をする、予定の変更は最小限に抑えるなどが有効です。
生活のパターンを決めることでイレギュラーを少なくし、ミスを少なくなるように環境を整えていきます。
コミュニケーション例
記憶障害のある人に話しかける場合はまず自分の名前や役割を名乗る、話題やテーマを具体的に伝えて話しかける、何かを説明・指示する場合は必ず紙に書いて目の届く場所に貼るなどが挙げられます。
話をする人のことを忘れてしまっていたり、話題を忘れてしまうこともあるため、名乗ったり具体的に伝えたりしてからコミュニケーションをとることでミスは少なくなります。
また、指示や約束事は紙に書いて目の届く範囲に貼っておくことで何度も思い出させるため、有効だと言えます。
⒉学習法の改善
記憶障害のある人にとって新しく何かを学習することは極めて難しいと言えます。
本人にとって重要で必要なことや、本人が行わなければならない作業の手順などに限定して学習してもらうことが大切です。
記憶障害の方には間違えさせない学習方法(エラーレス学習)が効果的と言われています。
エピソード記憶が障害されている方には間違えを修正しても、間違えを修正した経験が抜け落ちてしまうため、同じ間違えを繰り返す傾向が強いのです。
(失敗体験が手続き記憶として記憶されてしまい、反射的に失敗をするようになってしまう。)
そのため、初めから成功、正解するようにあらかじめ学習方法を計画しておくことで今後も失敗する可能性を減らすことができるのです。
⒊代償手段の使用
代償手段の中には内的補助手段と外的補助手段が存在します。
内的補助手段
記憶障害がある方が自分の頭の中で用いる補助手段のことを言います。
具体的には、「桜木さん→桜の木」のように置き換えて覚えます。
また、まとまった文章などを覚える場合には「PQRST法」と言うのも存在します。
外的補助手段
記憶障害によって生じる困難を減らす目的で物品などを使用して代償することを言います。
具体的には、日記・メモ・カレンダー・手帳を使ったり、ICレコーダーのタイマー機能を使って時刻ごとにすべきことを音声出力したりす ることがあります。
外的補助手段では実際に使用してもらう訓練が身につくまで丁寧に根気よく訓練することが大切です。
⒋グループ練習
記憶障害を持つ方が生活の中で度重なる失敗により心的ストレスを多く抱え、社会的孤立に陥るケースが多く存在します。
グループ練習は不安や抑うつ症状を緩和させる効果もあり、代償手段の獲得や社会的スキルの獲得、他患者間の情報交換などを行う場として使ったりもします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
まずは記憶障害かも?と思ったら専門の方に評価をしてもらうことが大切になります。
評価結果をもとにどのアプローチ方法が今後の日常生活に反映されやすいかを、本人様・ご家族様・職場の方も一緒に情報共有することで、生活しやすい場を整えることが可能になってきます。
もっと詳しく知りたい方や、本人様に合った対応方法が知りたい方は是非お問い合わせページからお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
松浦 一将 理学療法士
JBITA公認 成人片麻痺基礎講習前講習1、2修了
大学卒業後、回復期リハビリ病院へ入職。主に脳梗塞・脳出血の患者様のリハビリを担当。同病院で訪問リハビリも経験させて頂き、より患者様の「生活」に近い場所でリハビリに携わってきました。2022年ハート脳梗塞リハビリ・ラボへ入職。「麻痺をよくしたい」という方はもちろん、前職の経験も活かし、目標に向けた最適な自主トレや運動方法のご提案、情報提供も行っています。 皆様の何気ない「笑顔」を大切に、目標を達成して共に成長できるよう全力でサポートさせて頂きます。